ししと金蔵と私

 奥能登、町野町は老若男女問わず魅力的な人が多い。目力がある。過酷な自然の中で生き抜いてきた知恵や力強さが目に現れるのかもしれない。よってイケジョ・イケオジの含有量が高い。

 金蔵地区の石崎さんもその例にもれずイケオジである。石崎さんは料理も上手く、自家栽培のブルーベリージャム、山から採ったきのこの佃煮、こんかいわし(ぬか漬け鰯)を使ったジェノベーゼなどどれも優しい味を作り出す。

 その石崎さんが朝から冷凍しし肉(イノシシ肉)を持ってきてくれた。今晩はジビエでビールだ!

 

「自分で捌いたの。自分でワナで獲ったの」

 

 18時からのボランティア・ミーティング中から、石崎さんはしし肉をさばき始める。生姜と醤油で下味をつけ、金蔵集会所の業務用ガスコンロで焼き上げていく。火力が良いためたちまち食欲をそそるいい匂いの煙が立ち上がり集会所中に広がる。会議なので台所にはしし肉を焼き続ける石崎さんと私が残った。しめしめ、手伝うふりをして面白い話を独占できる…。

 金蔵での楽しみは石崎さんの語り部だ。私はたいてい傍らに陣取り話を聞く。金蔵の歴史、地域おこしの取り組み、金蔵の地の利、復興への思い、金蔵の怪談などなど。今日の話題はなんだろうと楽しみにしながら「この猪はどうやって手に入れたんですか?」と軽く話を振ってみる。奥能登は物々交換が盛んなところなので、きっとお手製のジャムや佃煮やキムチと交換にこのお肉を手に入れたんだろうと考えていたが、いとも簡単に

「うん、自分で捌いたの」

一瞬思考が止まる。・・・今、なんつった?

「罠を仕掛けて、自分で獲って捌いたの」

キターーーーー!!!!

今日の話題は猪狩りと、その捌き方!

 話しながらもまるで焼肉屋の店先のような良い匂いと煙を放ち、しし肉は次々と焼き上がっていく。それを嗅ぎ眺めながら、猪を仕留めるところから始まり、捌く様子を微に入り細に入る語りを聞く。語りの間からふっと獣の臭いが立ち込めた、ような気がした。

 

移住したら、イノシシ狩りだ!

 すべての肉が焼き上がり、ビールでしし肉を頂く。・・・美味しい。 以前、しし肉を食べたときには獣臭く、もっと固かった。石崎さんの手によるものはどれも優しい味がする。イノシシも例外ではなかった。野生で生きていたと思えるしっかりとした歯ごたえはありつつ、熟成が進み思いがけずに柔らかい。臭みは全くなく、むしろ肉の甘みを含んだ香りを感じる。丁寧な仕事があってのこの糧だ。命を頂戴するありがたさをつくづく感じる。

「イノシシ狩りに連れて行くと、大抵の人は食べられなくなるよ」

気のせいだろうか、そういうIさんの口調がなんとなく挑発的に聞こえた。

よし、金蔵に移住をしたら石崎さんのイノシシ狩りについていこう。

 めったに食べられないけれど、一緒に狩りに行けば食べられます。さあ、町野へ行きましょう(M.Midori)