9月3日のみんながけっぷちラジオでは宇都宮協立診療所でMSW(医療ソーシャルワーカー)をしている日下部実さんをゲストにお迎えした。MSWとは患者さんやそのご家族と相談員として向き合い、それぞれの問題や悩みに応じてアドバイス・支援を行う「地域と医療の仲介役」である。今回は生活に困窮し病院に通えない患者さんたちと診療所の現状を伺った。
「保険証、持ってない」病院を我慢する患者さん
私たちは具合が悪くなったら当たり前のように病院へ行く。それは「国民健康保険」で自身の保険証をもつことで医療費が3割の自己負担で病院にかかれる。だが、生活が苦しいため保険に加入できず「保険証がない人」もいる。つまり、病院の費用は全額自己負担となるのだ。だから保険証を持たない患者さんたちの中には、病院へ行かずに市販の薬を飲んで耐え、重篤な状態になってから救急車で搬送されるといった例もあるという。日下部さんは「市販の薬は、病院での治療の代わりにならない。本人が病院に行かないと解決しない」と語った。
「無料・低額」診療所の孤独な戦い。病院の持ち出しに頼る国。
日下部さんの診療所は「無料・低額診療制度」をやっている数少ない病院だ。診療費を無料か割引にして病院へ通えない患者さんへの対応をする。対象は、ホームレスやネットカフェ難民、外国ルーツの人など、経済的な理由で医療機関にかかれない人である。しかし、この減免された費用は診療所の損金として経営を圧迫している。この制度を設定するにあたり、「MSWを診療所に配置する」ことなど様々な規定があるが、国からの応援はあまりない。無料低額診療制度を取り入れている診療所も少なく(県内3か所)、現状を凌ぐための「ゴールの見えない苦しくて孤独な戦い」になっている。
「だらしない生活しているから」なのか。背景に「格差」
近年の物価高にともない、「食費を節約したい」とジャンクフードや、安くてお腹に溜まる菓子パンなどを食べている人が増えている。このような生活習慣の乱れから、生活習慣病にかかる人も少なくない。
私たちの現在の健康状態は、生まれながらの環境や体の特性の他に、働き方などの社会的要因、片親などの家族の問題などが絡み合ってできている。
生活習慣病などには「怠惰な生活をしているのが悪い」という、いわゆる"自己責任論"がある。しかし、当人の背景を見ると、そこには所得や学歴などの格差による生活の違いがある。人間らしく生きる権利を掲げている日本だが、生きるために必要不可欠な「健康」にも格差が生じているのは、悲しい事実である。
健康と「人との関わり」はイコール
WHOによる健康の定義は「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態」である。つまり、「病気でない=健康」、ではなく、健康は人間関係(=社会的関係)まで含むもっと幅広いものなのだ。日下部さんは「どのように社会参加をしているか、人と関わって生活しているかが健康には重要な要素になる」と語る。社会に自分の居場所を感じられることや、相談できる人がそばに居ることが健康であるためには必要だ。そのことを我々も改めて認識したい。
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今回のお話を通して、私自身も、保険証を持たない方々がいることに衝撃を受けた。また、無料・低額診療という制度には限界があり、根本的な健康格差の問題を解決しなければならないと強く感じた。みんなが自分の健康について考えられるくらいの余裕を持って生活できることが大切だと思う。(ラジオ学生:ちばなお)
「みんながけっぷちラジオ」×「栃木保健医療生活協同組合 日下部実さん」2024/09/03
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