「父が生きていた。死んでいてほしかったのに…」軍国少年の落胆

9月10日放送のラジオでは「とちぎの空襲を語り継ぐ会」代表であり、ウェブページ「とちぎ炎の記憶」を制作した大野幹夫さん(92歳)をゲストとしてお迎えした。大野さんは戦争の時代と宇都宮大空襲を13歳(中学生)のときに体験している。今回の放送では宇都宮大空襲という出来事について、そして軍国少年として過ごした戦時中の心情について語った。

 

宇都宮大空襲。「軍部、軍備工場が狙われた」

宇都宮は太平洋戦争当時12回の空襲を受けた。なかでも東京大空襲のような大きな夜間空襲は昭和27712日の宇都宮大空襲だった。アメリカの爆撃機「B29」による焼夷弾8万発の攻撃を受けた。当時の宇都宮市は現在よりも狭かったが、市街地の65%が焼失した。中心地(馬場町・二荒山神社前)に住んでいた大野さんも空襲に巻き込まれることとなった。宇都宮のど真ん中で空襲を体験した大野さんはその経験を語り部として人々に伝える活動を20年も続けている。

戦時中に攻撃の対象となったのは軍事工場や基地・港湾だった。宇都宮は全国に工場を展開する中島飛行機製作所(現・()SUBARU)の中核的な連結役を担っていたことに加えて那須・日光御用邸などを守る役割を担っていたため、アメリカ軍が挙げた「中小都市空襲目標都市リスト」では180都市のなかの55番目に入り、実際には28番目に空襲を受けたという。

 

戦争中の当たり前は今とは違う

 戦争中の暮らしを一言に表すのは難しいと大野さんは言う。現代では当たり前に売られているテレビや冷蔵庫などの家電も、コンビニで売られているものの9割も当時は無かった。物資は統制され、思うようには物が手に入らなかったという。こうした世の中だったということを念頭においたうえで戦争中の暮らしについて聞いてもらえないと、実際に起きたこととしてなかなかとらえてもらえないという。戦争中は誰しもが思うように物を手に入れることができなかった。皆が平等にモノがなかった。

実際に苦しかったのはむしろ戦後だった。隣組の制度や、互助の仕組みは無くなり助け合いが失われた。

 

戦争は心も破壊する。「ぴかぴかの軍国少年」の落胆

 満州事変(1935)とほぼ同時期に生まれた大野さんは、少年時代を軍国主義の社会とともに過ごし、生まれてから終戦まで軍国少年として生きてきた。今では考えられないが、「お国のために死ぬのは当たり前のことだった」のだと振り返る。言論統制の影響で何も読めず喋れず聞けず。まるで日光の三猿のような状況で戦争以外のことは何も知らずに過ごした。戦争を批判するような考えが少しもない、ぴかぴかの軍国少年だったと大野さんは当時の自分を振り返る。

 

「お父様は亡くなられました」と言われ、嬉しかった。

 その象徴的なエピソードを紹介してくれた。大野さんの父親は今でいうところの消防団に所属していた。そのため宇都宮で空襲があったときにも現場に駆け付けなくてはならず、大野さんは父とは別れて、母を自転車の後ろに乗せて避難した。途中の道は火の海だったが、夢中で自宅から4キロ先まで逃げた。翌朝、町に戻ると、自宅も何もかも無かった。それでも焼け跡から何か見つけようとしていた大野さん親子に、消防団の隊員が「お父様は無くなられました。」と告げた。本来なら悲しむべき出来事だが、当時の大野さんは悲しかったどころかむしろ嬉しくて、「父は仕事を全うしたのだ、これはすごいことなのだ、そして自分は英雄の子供なのだ」と思ったという。そんなところにニコニコ笑った父が帰ってきた。それをみて大野さんはがっかりしてしまったという。

この話を小学校でしたとき、感想文のひとつに「戦争というのはモノを破壊したり、家を焼いたりするだけではなく人の心まで破壊するんですね」とあった。その言葉にハッとするとともに、このエピソードを話してよかったと感じたという。

 

「語り継ぐ」とは「語った相手が語り始める」こと

「これからの世代の人々に伝えたいことは何か」という質問を受けるといつも困るという。「語り継ぐ」ということは、語った相手がまた語り始めるということだ。大野さんが作成したウェブページ「とちぎ炎の記憶」も継承する人が決まっている。これからの世代には語り継ぐことをしていってほしいと語った。

 ≪放送後記≫

 戦争経験者の人口が減少していく中、私たちができることを考えるきっかけになる放送になった。大野さんの言葉を借りれば、「語り継ぐ」という行為がこれからの日本を生きる者たちに求められている。聞いたことを自分のものにし、それを家族でも友達でもいいからほかのだれかに話していきたい。できることは身の回りにあるはずだ。 ラジオ学生 野田

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